
皆さんは、“歌”にどんなイメージがありますか?
「声楽」というと少しハードルが高く感じますが、カラオケで歌ったり、何気なく鼻歌を口ずさんだり……。歌は私たちにとって、もっとも身近な音楽のひとつともいえます。
そんな“歌”を生業にしているのが、ソプラノ歌手・鈴木麻琴さん。
オペラに出演したり、保育園や高齢者施設、結婚式で歌ったり、さまざまな場所で歌を届けています。
今回は、そんな鈴木さんに歌との出会いや演奏家としての想いをじっくりお聞きしてみました。
■鈴木 麻琴(ソプラノ歌手)
京都市立芸術大学卒業。第6回豊中音楽コンクール第2位。2022年度平和堂財団芸術奨励賞(音楽部門)受賞。オペラでは、≪コジ・ファン・トゥッテ≫デスピーナ、≪ラ・ボエーム≫ムゼッタ、≪こうもり≫アデーレで出演。演奏グループ「toi to! toi」メンバー。
■聞き手:福島 未貴
フリーランスのライター・トロンボーン奏者。武蔵野音楽大学を卒業後、現在は記事執筆の傍ら演奏活動や音楽レッスンの仕事にも携わっている。音楽を専門的に学び活動している演奏家ならではの視点から、音楽・演奏にまつわる情報や、演奏家の想いをお届け。
オペラへの出演から、グループ活動まで。本格コンサートに施設での演奏など、多彩に活動!
ーー まずは、鈴木さんの現在の音楽活動について、ぜひ詳しく聞かせてください。
鈴木さん:
ソプラノ歌手としてオペラに出演したり、コンサートで歌ったり、さまざまなシーンで演奏をさせていただいています。結婚式や高齢者施設、幼稚園などで歌わせていただくこともありますね。
最近はクラシック音楽のなかでも、特にバロック音楽(※)を演奏することが多いです。
私の先生が古楽を専門的にされている方なので、そのご縁もあってバロック音楽もよく演奏するようになりました。
(※)1600年ごろ〜1750年ごろまでのバロック時代の音楽。代表的な作曲家はヴィヴァルディ、バッハ、ヘンデルなど。

鈴木さん:
声楽家3人とピアニストで「toi to! toi」というグループ活動もしています。大学時代の同級生なのですが、なんと全員ソプラノ歌手でして。(笑)
声楽アンサンブルでは、高音域・中音域・低音域など、違う声域の歌手で集まってそれぞれのパートを歌うのが一般的なんです。
でも、私たちは3人ともソプラノ歌手なので、みんな高音域が得意領域です。なので、そのときどきでメゾソプラノとアルトにパート分けして、3人でハーモニーを奏でています。
なかなか珍しい編成なのですが、メンバー全員が大学時代からの友人であり、お互いのこともよく分かっているからこそ、息の合った演奏ができます。
グループ名の「toi toi toi」とは、「頑張れ」「上手くいくよ」といった意味がある、ドイツのおまじない。クラシック音楽の業界では、応援や励ましの言葉として舞台に上がる直前の人に「toi toi toi!」とエールを送ったりするんです。
私たちの演奏で、聴いてくださる方が元気になれるといいな、という願いを込めてつけました。
歌うことが、なによりも好きだった。地元の合唱団からはじまった、声楽の道
ーー 音楽の習いごとといえばピアノやヴァイオリンが定番ですが、歌を習っている人は少し珍しい気もします。どのようなきっかけで、声楽を始められたのですか?
鈴木さん:
小さいころから、とにかく歌が大好きだったんです。私の母も、プロの歌手ではないのですが歌が好きで。幼いころから、いろいろな曲を歌って聴かせてくれました。
なかでも母がよく歌ってくれたのが「月の砂漠」という曲です。私がまだ小さいころ、ベビーカーに乗りながらフルコーラス歌っていたらしくて、それくらい歌が大好きなちびっこでした。

鈴木さん:
本格的に歌を勉強することになったきっかけは、11歳のときに入団した「おうみ少年少女合唱団」でした。合唱団を見つけてきてくれたのも、母でしたね。
その合唱団の先生が「歌が好きなら、高校にも“音楽科”というのがあるよ」と教えてくれて。
歌にもいろいろなジャンルがありますが、私の場合はクラシック音楽がいい、ミュージカルがいいなどの強いこだわりもなく、とにかく歌うことが好きだったので「じゃあ音楽科に行ってみようかな」と。
歌そのものが好きで、そのときに周りが勧めてくれたものや自然な流れに乗って、歌をやってきました。
歌詞があるからこそ、より想いが伝わる。お祝いの席をもっと華やかにする、歌の力
ーー 音楽を習ったり勉強したりしたことがない人にも、“歌”というのは、とても身近なものかと思います。そんな歌が特に映えるのは、どんなシーンでしょうか?
鈴木さん:
パーティーや結婚式などの華やかなシーンには、歌は特によく合うと思います。
楽器だけでももちろん素敵なのですが、そこに歌が入ることによってさらに華が添えられるというか。
やはり歌には歌詞があるのが大きな魅力ですよね。メロディに歌詞が乗ることで、メッセージ性が生まれる気がします。お祝いごとの際には、ぜひ楽器だけでなく歌も入れてみていただけるといいかな、と。
鈴木さん:
ほかには、高齢者施設での演奏も歌があるとすごく喜んでいただけますね。
歌のよいところって「誰でもできる」という点だと思うんです。
ピアノや管楽器は初めての人には少し難しいかもしれないですが、歌は声があればできますよね。
歌は、特別な知識や技術がなくても、その場にいるみんなが始められる楽器のひとつだと思っていて。私の演奏を聴くだけでなく「自分たちも参加できる、一緒にやれる」といった点が、喜ばれる理由かもしれません。
歌があの頃の記憶を呼び起こす。高齢者施設でもらった、心に残るひとこと
ーー これまでオペラなどの大舞台から、お客さまの間近で歌うコンサートまで、幅広く活躍されていると思います。そんななかで、特に思い出に残っているエピソードはありますか?
鈴木さん:
とある高齢者施設で歌わせていただいた際に、私の歌を聴いて「あの頃の◯◯を思い出した」と言っていただいたことが、すごく嬉しかったです。
歌や音楽って、人の記憶と密接に結びついているものですよね。
私の歌で、人生のなかにある大切な記憶や楽しかった経験を思い出してくれて、それを私に伝えてくれるというのが、本当に嬉しくて。
歌を聴くだけでなく「一緒に歌ったことで、昔の記憶が蘇ってきた」と言ってくださる方もいらっしゃって、すごく心に残っています。
ただ“聴く”だけじゃない!みんなが参加できるコンサートを目指して
ーー 鈴木さんがコンサートに出演したり、演奏をしたりするうえで意識していることや、大切にしていることはなんですか?
鈴木さん:
演奏を楽しんでもらうのはもちろんですが、MCの内容や伝え方も意識しています。
たとえばMCで楽曲説明をすると、私たち音楽家にとっては当たり前でも、お客さまからしたら「知らなかった!」「面白い!」と思ってもらえることが意外と多いと気がついて。
私は普段からMCを担当させていただくことも多いので、エピソード集めはしっかりと準備するようにしています。
鈴木さん:
演奏面においては、なるべくお客さまが参加したくなるようなプログラム設計をしています。
もちろん、じっくり聴くことに集中するコンサートもあるのですが、高齢者施設や幼稚園の演奏では一緒に楽しんでもらえると嬉しいな、と思っていて。
思わず歌いたくなるような有名な曲を入れたり、お子さま向けならちょっと踊れるような曲を入れてみたりしています。
年齢層の広いイベントの際には、老若男女問わずみんなが知っている曲をたくさん入れたり。そのときどきで、みんなが楽しめる内容を考えています。
歌はもっとも身近な楽器。誰もが「歌える」からこそ生まれる温かな空気
「声」は、誰もが生まれながらに持っている楽器。 だからこそ、コンサートホールでも、高齢者施設や保育園でも、シーンを問わず、聴く人の心にまっすぐ届くのかもしれません。
鈴木さんの歌声には「その場にいる人と一緒に楽しみたい」という想いが込められており、その場の空気が温かく感じられます。
そんな鈴木さんの歌声、イベントやお祝いの席にぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか?
<鈴木麻琴さんプロフィール>